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津山発のネクタイブランドを全国に展開

後編株式会社笏本縫製 代表取締役

笏本 達宏

津山市

株式会社笏本縫製の代表取締役 笏本達宏さんにお話を聞きました。

 

#事業承継
#脱下請け
#ブランドづくり
#モノづくりの本質
#つくり手の幸せ

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10自社ブランドがなければ、今はない

丸尾

それでは後編です。

前編はこちら> 株式会社笏本縫製 代表取締役 笏本達宏 (前編)

丸尾

直近では、コロナ禍が現状も続いています。

ネクタイは、ビジネスとかオフィスでの動きが止まると、受託製造の方に関しては影響がありましたか?

笏本

めちゃくちゃありました。だからもともとあった発注がストップしたり、納品を待つよう言われたりとか、実際は地獄のような感じでしたね。

2020年、21年というのは、受託製造の方はかなりしんどかったです。

丸尾

構成比率が逆転していると言われていましたけれども、コロナ禍になった時には、既に自社のSHAKUNONEというブランドがあります。自分たちが、自社ブランド製品を、直接お客さんに対して提供するという形になっていったというとことです。やっぱりそれにより状況は大きく違いましたか?

笏本

例えば、もし自社ブランドを2015年に立ち上げるといって、周りからバカにされて、「無理だ無理だ」と言われて、「下請け工場が生意気だ」とか結構ひどいことも言われました。

 

でも踏み込んでやっていなかったら、恐らくもっと前の段階でつぶれていたかもしれません。もしコロナ前まで堪えきれていたとしても、コロナ禍ではアウトだったと思います。おそらく、銀行の融資借換とかをやっても、多分もう資金ショートは2か月先、3カ月先まで迫るというような状況だったと思います。

 

そのときに、「自分たちのブランド持っている」、「お客さんの声を吸い上げる」ことができる、しかも自分たちは「声を反映してつくる」力があって、「売る仕組み」も持っている、それを「発信するツール」も持っているとなったときに、「もしかしたら、最強なんじゃないか?」となりました。

11コロナ禍でも成長を続けることができる

丸尾

コロナ禍になって、受託製造の方は減ったり止まったりしますが、自社ブランドであるSHAKUNONEのネクタイは、ずっと売れてきているんですよね。

笏本

そうなんですよ。ずっと伸びているんです。まず、買いにいくことが億劫になって、ネット購入が広がってきたというのでそこはチャンスでした。うちは細々でもずっとやっていたので、そこのアドバンテージがありました。

 

さらに、コロナ禍になって、社会貢献的な意味も含めて、マスクの提供を始めました。それを機会に知っていただいて、「こんな興味深い会社があるんだ」みたいな感じでネクタイを買ってくださることにもつながりました。さらにリピーターにつながったりも。

丸尾

いわゆる受託製造で、大手メーカーの下請けをやっていた方が安全なんじゃないかみたいな、昔からの考え方、流れがあったりするところで、あえて自社ブランドを立ち上げ、結果コロナ禍ではそちらの方が売れていくとは(驚)

笏本

そうなんですよ。だから極論を言えば、大手さんからは確かにめちゃめちゃ仕事があるけど、利益率はすこぶる低いということで、やっぱりどんどんジリ貧になっていってしまいます。だからやればやるほど、どんどん首を締めていくという状況がずっと続いていきます。

 

結局、悪しき業界の伝統なのか分かりませんけど、取り仕切っている方々が、右といえば右だし、黒いものを白いと言えば白くなるしという感じで、ちょっと何かトラブルがあったり、気に食わないことがあったりすると、変な話、すぐに切られちゃう。

 

かといって、もともと下請けをやっていた自分たちが、自分たちのブランドをつくると、干されるんじゃないかという不安もありました。実際に「干す」と言われたこともあるんですよ。けど実際は干されなくて。ちょっとずつ離れていく人もいましたけど、その中で何とか維持しながら、自社ブランドを育ててきています。

 

仕事のやり方、比率を変えていったりしていると、コロナ禍がやってきてた。何とか間に合って、受託製造は一気に減ってしまったけれど、自社ブランドの方は伸ばしていけた構図ができたので、自由になれたみたいな感じです。

笏本縫製の本社工場入り口にあるサイン

12品質のよいネクタイを求めるお客様が増加

丸尾

お客さんは新規の方もたくさんいらっしゃると思いますが、リピーターも多いですか?

笏本

ギフトの関係があるので、一見さんも割と多いんですけど、リピーターが増えましたね。やっぱりSNSとかでつながったお客さんが、徹底的にリピーターとして長く買ってくださいますね。

丸尾

買われやすい商品の傾向はありますか?

笏本

やっぱり今はネクタイを着けるシーンが減った分、日常的に安いものを使いまわそうみたいな感じじゃなくて。品質がよく使い心地がよくて、外見にもシンプルで格好いいものを選ぶ方が多いので、割と派手なものを選ぶ方は少なくなりましたね。

 

という意味でも、2015年~17年ぐらいからつくり始めたこのオリジナルシリーズが伸びているんです。

丸尾

自社のオリジナルのデザインが一番売れるって、めちゃくちゃいいですね。

笏本

めちゃくちゃうれしい。しかも、いろんなものの中で平均的にいいよねという感じじゃなくて、もう断トツなので。オリジナルデザインが売れ筋トップ10にすべて色別で入るので、すごく嬉しいんです。

丸尾

先ほどの目が見えないお客様の話でもありましたが、ネクタイの品質は手触りでわかるといわれていました。ネクタイを結んだ時の音も「きゅっ」となるものは品質がよいと聞いたことがあります。

笏本

あれは「絹鳴り(きぬなり)」というんですけど、結び方とか織り方によって、はっきり聞こえるものと聞こえないものがあるんです。商品の特性によって変えているんですけど、生地を柔らかく結びやすいように仕立てるやり方と、オールドスタイルで、結構生地に張りを持たせた仕上げもあるんですよ。

 

生地の密度が高くて、結構固めにしっかりと仕上がっているものとかだったら、「ぎゅっ」という音がします。正確に言うと、耳で聞こえる音よりも、結んだときの「ぎゅぎゅっ」というこの指に伝わる感覚がめちゃめちゃ大事です。

13お客さんを知ること、自分を知ってもらうこと

丸尾

SHAKUNONEは、お客さんの近くにいるからこそ、声も反映できますし、新たな提案もできるという、ものづくりとしては、あるべき姿なのかなと思いますね。

笏本

お客さんに素直に、「どうやったらいいと思います?」とか、「何で買ってくれなかったんですか?」とか、「どうやったらもっとよくなると思いますか?」とか、結構シンプルに聞くんですよ。それは新しく入ったスタッフにも、わからんかったら、上司よりお客さんに聞いた方が早いと教えています。

丸尾

SHAKUNONEのコーディネート事例でSNSに投稿されている写真がたくさんありますが、お客さんが写真を送ってきてくれるんですね。

笏本

そう。スーツって1人で持てる数って限られています。よく持っていて3着とかだと思うんです。けど、自分でコーディネート写真をインスタグラムに挙げようと思ったら全然ないんですよ。

丸尾

たしかに、難しいですよね。

笏本

毎回スーツ着て写真撮って脱いでという時間も難しいので、お客さんに協力してもらったらいいやと思って(笑)、お客さんに言って、「写真撮って送ってきてください。」とお願いしています。

 

ハッシュタグつけて投稿すると、お客さんも喜んでいただけるし、うちの方としてもコーディネートはそろうし、いろんなスーツで提案もできるようになっています。

丸尾

笏本さん自身が、代表者でもありながら、個人でもツイッターなどもガンガン使われていますね。Yahoo!ニュースにも取り上げられたりとか、テレビ特集にもつながったのとかも。SNSをすごく活用されているというのは、笏本さんにとってはどういう位置付けなんですか?

笏本

そもそも原点のところから言うと、無名の縫製工場が無名のブランドをつくって、何者でもない自分たちが買ってくださいといっても、数字も全然ついてこなかった時期があるので。

 

それでも続けていくと、ちゃんと知っていただければ、買っていただける可能性があるというのもわかったんです。まず僕のファンになってもらった方がいいとか、知ってもらった方がいいとか、いろんなことを考えて、使えるSNSを全部使っている形です。

 

とにかく知ってもらってからがスタートライン。知られていないうちは、その人の中には存在できていないので、まずは知ってもらうこと。好きか嫌いかはそこから判断してもらえばよいと。まずは自分のことを開示していくという感じですかね。

丸尾

笏本さんの「ネクタイの背骨の線を切ってはならない」投稿が、すごくバズったのを覚えています。さらに、ネクタイにかぎらず、いろいろな内容の投稿がメディアに取り上げられているのを見ます。笏本さん自身の幼い頃からの話だったりとか個人をどんどん出していますよね。

笏本

専門知識って、意外と湯水のように湧いてこないんですよね。何回も同じ話をこするみたいな感じになっちゃいます。でも不思議と人間って、やっぱり生きていくと新しいことが起きるので、過去をちょっと振り返ったり、昨日起きたこととか今日起きたこととか、そういうのを発信していくようにしています。

 

みんな同じような日常を過ごしていたり、同じような出来事の中から感じたことが同じだったり、という共感を積み重ねていければと思っていて、とにかく1日も欠かさずやるというのだけを決めてやっています。

14自社ブランドだからこそ実現できること

丸尾

SHAKUNONEは、すごく有名な方も着用されていますよね。企業とのコラボもあります。やっぱりオリジナルブランドであってこそと思います。

それこそ総理大臣が着けられおられたり、あとはスポーツチームも着けられたりとかしています。あれはどういった流れで、着用いただけているんですか?

笏本

スポーツチームとかになると、やっぱり地元のチームなので、地元のドレスコードをするときには、地元の商品着けたいみたいなので、スポンサーとして提供させていただくことがあります。

 

あと、例えば総理大臣に着けていただくとかは「ご縁」です。こうやってやっぱりツイッターで発信するしたり、Facebook、インスタグラムなどでずっと発信をしていると、いろんなご縁があって、総理大臣に渡す機会がある方などから、依頼されることがあります。

丸尾

すごいですね。それで総理大臣は着けてくれましたもんね。本当に受託製造だけでは全然ない世界ですね。

笏本

そうですね。あとブランドとして確立されれば、企業さんからのコラボみたいな話をいただくことができます。今だと、イギリスの有名なピーターラビットとのコラボも今進めていますし、来春には手塚プロダクションの『鉄腕アトム』とのコラボとかというのもやるんですよ。

丸尾

大手スーツメーカーともコラボされたりもありますよね。

笏本

2015年、16年とかで、まだ駆け出しで無名のときに、一回アプローチしたんですけど、「無名のところとは難しい・・」みたいな感じだったんですよ。その後2020年ぐらいになって、知名度が上がってきて、「日本のネクタイのブランドといえば」というのが、少しずつ認知が広がってきたときに、先方もメリットを感じてくれるようになって、繋がったという感じです。

15苦しさがわかっているからこそ

丸尾

最近は異業種の方々もアドバイスされたりしていますが、あれはどういった理由でされていることですか?

笏本

レプタイルさんがやられている創業スクールHomingも含めてですが、相談が個別で来たりとかするんですけど、「ゼロイチからのスタート」というところもそうでしょうし、これが事業承継で「後継ぎ」というところも当然そうなんですけど、割とみんな順風満帆に生きていなくて、どちらかというと崖っぷちということなのかなと思います。

 

まだまだうちも崖っぷちで、もっとやらないといけないんですけど、崖っぷちから逆転したぞみたいなイメージをもっていただいているようです。

 

「何をしたんですか?」「どういうマインドでやったんですか?」「どういう設計でやったんですか?」「何をどういうふうにやったら、そういう縁ができたんですか?」とかというのをめちゃめちゃ聞かれるんですよ。

 

ただ、苦しさというのを少し分かっているつもりなので、できるだけ応えてあげたいと思っています。やれることがあるんだったら、やってあげたいというのがあるので、いろいろ相談に乗ってあげたりしています。「ZOOMで話聞かせて」みたいな依頼があったりとか、「事業計画書を見て欲しい」と送ってきたりとかがあります。

16チャレンジする人を引っ張り上げる

丸尾

笏本さんには、ここ数年、「津山地域の創業スクールHoming」にもメンターという形で、事業をつくっていく人たちにアドバイスをいただいていいますが、そういったサポートというのも、何か思いがあってやられているんですか?

笏本

やっぱり人がどんどん少なくなってきて、人の母数が少なくなると、チャレンジの母数も少なくなると思うんです。僕はそう思っているんです。

 

となったときに、チャレンジしようとしている人たちを引っ張り上げる誰かが必要だと思うんですよ。それはお金の面、例えば投資家みたいな形とか。それとも背中を押してあげられるようなサポートの体制もそうだと思います。

 

僕はお金じゃなくて、サポートの体制しか今できないので、何かできることはないかなと考えたら、もうそれしかなかったという。レプタイルさんからもせっかくお声かけをいただいたりとか、自分自身もHomingに育ててもらったというのもあるので。

 

そこに還元できることって、自分の時間と知識を次に渡していく。
それが例えば年上の方でも全然いいと思うし、年下だったらなおさらやる気出るしみたいな感じです。頑張れる人って意外といないと思うんですよ、僕。

 

本当にヤバいときに踏ん張れる人間って、そう多くないので。
頑張ろう、踏ん張ろうみたいなところに寄り添える人がいないと、多分みんなしんどいので、そこに何かきっかけで入れるなら、やってみようかと思いました。

 

実際やってみたら、めちゃめちゃ自分のためになるという(笑)。
今はあまりそこまで深くか考えず、「自分のためにやっているんだ」ぐらいなマインドでやったりはしていますけどね。

17各地のオーダースーツ屋さんとともに

丸尾

ちなみに、岡山県でオーダースーツを提供されているガルディさんとも提携されているのですね。

笏本

今、目標があって、オーダースーツ屋さん47都道府県制覇なんです。百貨店さんとかじゃなくて、オーダースーツ屋さんみたいな、ちゃんと接客とカウンセリングと信頼がある場所に。

 

まだ始まったばかりなんですけど。その岡山地域店の1つめがガルディさんで、お付き合いさせてもらっているという感じですね。

丸尾

ガルディさんで、以前、僕もスーツつくったことがあるんですけど、「岡山でオーダースーツといえばガルディ」ですもんね。まさにSHAKUNONEがすごく当てはまるなと思いました。

笏本

そうなんです。まず、地元を大事にしようというのが当然ある。なぜかというと、ちゃんと地元に根付いて育ててもらったブランドだからです。
地元の企業、地元の社長さん、地元の友達、知り合い、全てひっくるめて地元がなかったらできていないので、まず地元から。

 

岡山、中国地方とつながっていけるように、まずガルディさんの付き合いというのを一番最初に始めた。これを47都道府県に広げたいと思います。

丸尾

すごくいいですね。何か直接ECで売っていくのもいいですけど、やっぱり寄り添っている人たちと一緒に提供していくというのは、とても当てはまりますよね。価値を伝えてくれやすくなりそうな気がします。

笏本

そうです。今までずっと店頭に立ち続けてきて、自分以上にSHAKUNONEを伝えられる人というのは正直いなくて、当然これからもいないと思うんです、僕以上に伝えられる人は。

 

けど、それに匹敵するぐらいの時間と密度を持って話してくれる人はきっといると思っているので。そういう人たちにお願いして、連携をしていくことも、すごく大事にしたいと思っています。

18堂々と「自分たちは幸せです」と言えるモノづくりを

丸尾

SHAKUNONEのこれからのビジョンを教えてください。

笏本

根本は、会社の経営理念の「お客様に喜びを、つくり手に目いっぱいの幸せを」というところに関して、まず自分たちが本当にそうなることです。堂々と私たちは幸せですと言えるようになること。それはスタッフも含めてです。

 

そして、同じような立場の、身近な町工場さんにも自分たちがやってきたことを伝えられたらという思いはあります。僕、地元から出る気はさらさらないので、この岡山県津山市という地元にそういう会社があって、東京じゃないとできない仕事ではないと僕は思っているし、むしろここじゃないとできない仕事だと思っていします。

 

この場所に根付いた強い会社をつくりたいと思っていて、ネクタイだったり、ブランドというのも含めて、その一つの手段なので、手段だけにとらわれず、いろんな人と関わりながら、「お客様に喜びと、つくり手に目いっぱいの幸せを。」をここ数年は徹底してやっていきたいなと思っています。

 

そこから先は、多分そのステージで見えるものがあると思うので、めちゃくちゃ先のことは考えていない。割と目先で生きています。

丸尾

最後に。大切にされていることはありますか?

笏本

自己中と取られるかもしれないですけど、まず自分が幸せになることを考えています。相手にギブするのも大事だし、時にはテイクを求めることも多分あると思うけど。

 

「誰かを幸せにしたい」といって、誰かに幸せを提供するのは、自分がある程度満たされていないと実現できないと思っています。判断基準というんですかね、「まず自分が幸せになること」というのは、すごく大事にしています。

津山発のネクタイブランドを全国に展開

 

株式会社笏本縫製
岡山県津山市にある縫製会社。
創業から約半世紀。縫製に関わる技術とノウハウを蓄積し2015年にはオリジナルの高級ファクトリーブランドとしてSHAKUNONE(笏の音)を立ち上げ展開している。

お話を聞かせていただきありがとうございました!創業からこれまで行ってきた受託製造から、長年蓄積されてきた技術を生かし、オリジナルブランドに舵を切られてきた経緯は、改めて大きな覚悟と、エネルギーを感じました。

 

また、業界としても力関係など多くの障壁があったことが想像されます。「お客様に喜びを、つくり手にめいっぱいの幸せを」と自分たちのあり方を定義し、それに向かい突き進む姿にとても感銘を受けました。

 

その結果、事業としても、変化に対応できる本質的なモノづくりとなっている点も注目すべき点です。多くのモノづくり企業でも応用できる部分があると感じました。笏本さんは、お客さまとつくり手の関係性を変えていく、津山からネクタイ業界を変える、かえーる人でした。

 

 

  • 取材日:2022年10月4日
  • 撮影地:株式会社笏本縫製(岡山県津山市)
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