[Uターン・Iターン・移住]いーなかえーるは、岡山県北の求人情報をご紹介します
ようこそ蒜山の森へ。おしゃれで心和む、「もりくらす」でほっと一息
目次
森の中の喫茶とお宿 「もりくらす」
まさに、「もりくらす」。
森の中にひっそりと馴染んだ佇まいに、そんな印象を抱きました。
2021年4月にオープンした真庭市蒜山の「もりくらす」は、喫茶スペースと、一日一組限定の宿泊空間が一体となった施設です。
訪れたのは平日にも関わらず、ひっきりなしに車が訪れています。
真っすぐなスギの木々に囲まれた「もりくらす」
真庭市蒜山は、リゾート観光地として知られ、農業や林業もさかんな地域です。
「もりくらす」のオーナー植木さんは、蒜山生まれ蒜山育ち。
穏やかな笑顔が絶えないそのお人柄に触れながら、蒜山の魅力が詰まった「もりくらす」の喫茶・お宿について、伺いました。
さりげなくて可愛らしい、丸い看板が目印
ここ蒜山で、喫茶とお宿をやりたかった
「もりくらす」オーナー 植木将和さん
― 開放的で、とても雰囲気の良いお店ですね。にぎわっているのも納得です。
植木さん:ありがとうございます。この喫茶とお宿は、ずっとやりたかったことなんです。自分の地元でオープンできて、こうしてたくさんのお客様に来ていただけて幸せですね。
― 昔からイメージがあったんですね。どうして喫茶とお宿を一緒にされようと思ったんですか。
植木さん:以前サービス業をしていて、目の前の人に喜んでもらえる仕事はいいなとずっと思っていて。喫茶もお宿も、おもてなしという意味では同じです。ちょうどこの土地が手つかずになっていたので、一つの空間に一緒につくりました。
左側がお宿スペース、右側が喫茶スペースになっている
温かみのある電球色の案内がお出迎え
「もりくらす」の喫茶
喫茶スペース。夏は気持ちのいい風が通り、冬は暖炉で暖かい
― 喫茶店内ですが、小物や雑貨がおしゃれですね。セレクトショップのようです。
植木さん:ありがとうございます。「もりくらす」用に集めたわけではなく、ずっと趣味で、自宅にコレクションしていたものを持ってきました。私の好きな物ばかり置いてありますね。
― すべて植木さんが集められた物なんですね。どれもおしゃれですし、どこか遊び心も感じます。
植木さん:年代物とか、変わった物もいろいろありますね。トイレの手洗いは、ヴィンテージミシンをリメイクしました。見た目がかわいいですし、お客様からも「珍しい」と喜ばれていますね。ここを手伝ってもらった水道屋さんのアイデアです。
ミシンをリメイクした手洗い。建具もヴィンテージ品を再利用している
― 喫茶メニューのこだわりを教えていただけますか。
植木さん:蒜山は季節ごとにおいしい野菜や果物がたくさん採れるので、できるだけ旬の食材を楽しめるメニューにしています。地元野菜を使ったベーグルサンド、ブルーベリーやトマトのスムージー、新庄村の黒文字茶も人気ですね。黒文字は、このあたりで採れるハーブです。爽やかな香りでリラックスできますね。
森林浴ができるハンギングチェアも
― 喫茶に訪れるお客様も、皆さん優しいですね。私たちにも気さくに「頑張ってね」と声をかけてくださったり。
植木さん:よかったです。私自身も、素敵なお客様が来てくださっていると感じますね。あまり宣伝をしていませんが、それでもここを見つけてくださるお客様に感謝です。ご夫婦やカップル、一人でゆっくり過ごされる女性のお客様も多いです。
― 居心地がいいですもんね。
植木さん:お好きな本を好きなだけ読まれたり、蒜山観光の途中で立ち寄っていただいたり、思い思いの時間を過ごしてもらえたらと思いますね。
厨房に立つ植木さん。「もりくらす」オリジナルの焙煎コーヒーも人気
「もりくらす」のお宿
― 宿泊は、一日一組のお客様限定なんですね。
植木さん:ええ、あえてそうしました。森の中でゆっくり過ごしていただきたいですし、自分の目の届く範囲で、そのお客様だけをもてなしたいと思って。感染症対策の観点からも結果的によかったと思います。
広々とした客室。味のあるキッチンは、かつて「校長先生の机」だったもの
ロフトもあり、グループでの宿泊も可能
― 客室のテラスではバーベキューも楽しめるんですね。
植木さん:バーベキューも旬の地元食材を楽しんでいただいています。朝食につく名産の蒜山ジャージーヨーグルト、ジャージー牛乳も新鮮でおいしいですよ。
1部屋朝食付き2名利用 38,000円~
― 泊まりとなると、暗い時間はまた雰囲気が良さそうですね。
植木さん:そうですね。建物下の鉄骨部分は、黒い塗装で仕上げたんです。夜になって室内に灯りがともると、浮遊感というか、森の中に浮いているような感覚になります。
森の傾斜を生かし、視界の変化も楽しめる
「もりくらす」ができたのは、地域の人々がいたから
― 随所にこだわりを感じますが、オープンにあたって、大変だったことや悩んだことはありますか。
植木さん:うーん。振り返ると、あまりなかったですね(笑)。前の仕事もあったので、「やるぞ」と決めてから7年くらいかかりましたけど、とにかくずっと楽しかった。オーナーは私ですけど、友人や地元のつながりある人にたくさん助けてもらって、相談しながらこの場所をつくり上げていきました。
― 「もりくらす」は、地元の方の力を結集して生まれたんですね。
植木さん:そうですね。施工のときも友だちの水道屋さんにいろいろとアイデアを出してもらったり、喫茶メニューのベーグルもケーキも、友人つながりで仕入れていたり。オリジナルの焙煎コーヒーもそうですね。相談しやすい人がたくさんいるのも、この地域の良いところだと思います。
オープンまでの道のりを楽しそうに語る植木さん
― 建物も、なかなか他にはないデザインですね。
植木さん:設計は、岡山市のデザイン事務所の作ちゃん(株式会社シファカ 代表の作元さん)にお願いしました。作ちゃんも友人です。できるだけ木を切らなくて済むように、建物の配置から細かな設計まで頑張ってもらいました。森の中に建物がお邪魔させてもらう感じですね。
― だから屋根の形も特徴的なんですね。森の中に溶け込んでいるような印象を受けました。
植木さん:森の中に建てる以上、最初から大事にしていたイメージなんです。雨風で多少スギがしなっても問題ないつくりになっています。
森の木々と共存する、「もりくらす」の設計
― 建物にも真庭市の材料が使われているのでしょうか。
植木さん:はい。酪農、農業だけじゃなく、林業も有名ですからね。銘建工業さんのCLTパネル(直交集成板)という木材を使っています。DIYも趣味なのでほとんどの建築作業を私もやりましたが、CLTパネルはサイズが大きくて、とにかく重くて(笑)。でも、それもいい思い出ですね。
スギの木目が美しい、真庭市のCLTパネル
手は広げすぎない、来てくれるお客様を大切に
― 今後の展望を聞かせていただけますか。
植木さん:今が充実しているので、無理にお客様を増やしたり、同じような施設を増やしたり、ということは考えていないですね。これからも喫茶と、一日一組様のお宿でやっていこうと思っています。
― 規模を大きくするよりも、目の前のお客様を大切に、ということですね。
植木さん:そうですね。幸せは人それぞれですけど、私は今が楽しいですし、来てくれるお客様を大事にしたいと思っています。よくノートに 「また来るね」という感想をいただけるので、そんなふうに、蒜山やこの場所のことを気に入っていただけるお客様を増やしていきたいですね。
インタビューを終える頃、「もりくらす」の周りではたくさんのヒグラシがカナカナと鳴いていました。
「名前のとおり、夕方になると鳴くんですよ。ああ、もう夜だなぁと」
植木さんのそのお話しぶりからも、森で暮らすとはこういうことなのだ、と感じました。
1分1秒に追われることなく、急かされることなく、自然の流れに身をゆだねる感覚。
「最近忙しくて疲れているな」と思ったら、この場所に深呼吸をしに来てもいいかもしれません。
蒜山の森の澄んだ空気に、植木さんたちがつくり上げた優しい空間に、心がすっと楽になるはずです。
秋の紅葉シーズンに、また来たくなる景色
取材・文:楢崎 美香