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津山銘菓「五大北天まんじゅう」を受け継ぐ

後編株式会社くらや 代表取締役社長

稲葉伸次

津山市

株式会社くらやの稲葉さんに、「つゝや」の津山銘菓「五大北天まんじゅう」を受け継いだ経緯についてお話を聞きました。

 

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1津山銘菓「五大北天まんじゅう」を受け継ぐ

丸尾

2023年5月頃から休業中だった「つゝや」さんの、津山銘菓「五大北天まんじゅう」を受け継がれた経緯を教えていただけますか?

稲葉

「つゝや」さんの事業承継は、ある日突然、銀行を通じてお話をいただきました。

 

1996年創業の「つゝや」さんは、優しい甘さのあんこと黒糖の風味広がる「五大北天まんじゅう」を津山市小原で製造販売するお店でした。1日数千〜1万個ものおまんじゅうが売れるほどの人気ぶりだったといいます。しかし2023年5月、店主の筒塩さんが体調を崩されたことから休業されてしまったんです。

 

私も「五大北天まんじゅう」は、本当に美味しいおまんじゅうだと思っていましたし、津山を代表する銘菓だと思っていました。「つゝや」さんが休業されて、みなさんが寂しく思っているお声も多く耳にしていました。

丸尾

私も、「もう、五大北天まんじゅうを食べられないのか・・」と思うと、すごく寂しかったです。

稲葉

私は、津山菓子組合の会長も拝命しており、津山菓子組合としても、「津山の文化」と言っても過言ではない人気のあるお菓子が、津山から姿を消してしまったことにとても心を痛めておりました。

 

約30年前は津山に60軒ほどのお菓子屋さんがありました。それが現在は20軒を切るまでに減ってしまい、この状況に私は危機感を持っていました。

 

銀行から事業承継のお話をいただいたのが、2024年の2月頃です。降ってわいたような話で最初は戸惑いましたが、同業者として私ができるのであれば津山銘菓「五大北天まんじゅう」を復活させたいと思いました。

 

社内にその話を持ち帰り検討したところ、ちょうど、コロナ明けの需要回復を見込んでスタッフを4、5人増員したタイミングであり、そして私の息子が2年前に津山に帰ってきていたこともあり、弊社の受け入れ体制も整っていると判断しました。

そうして、2024年5月に事業承継の話を具体的に進めることとなりました。

2遠かった、あと一歩の塩梅(あんばい)

丸尾

引き継ぐことを決断されてから、オープンまでのお話を教えていだけますか?

稲葉

2024年7月末に事業承継の契約を締結し、9月から本格的にオープンに向けて動き始めたんです。当初の予定では、1ヶ月ほどで「五大北天まんじゅう」を作る技術を継承して、10月にお店をオープンする予定でおりました。しかし、やってみると、なかなか「あの味」を再現できなかったんです。

 

店主の筒塩さんは体調が思わしくなかったので、奥様から作り方や材料など事細かに教わるのですが、「塩梅(あんばい)」の部分が非常に難しく「あの味」にならない。毎日毎日作っても、「あの味」を再現できないんです。1ヶ月で技術習得できると考えていた私の見通しが甘すぎました。

丸尾

塩梅・・・。

稲葉

蒸し方や材料の配合などの作り方のベースは教わっているのですが、毎日変わる天候や気温にどう対応したらいいのか、なんとかできそうな雰囲気はあるけれど味が変わる・・・。ということを繰り返しやっていました。

 

それでも満足いくものができなかったので、当初10月上旬と想定していたオープン日を延ばすしかありませんでした。「10月の上旬、いや、10月の中旬、いや10月末……」と。11月になっても、最後の最後、あともう1歩の詰めができていない状態でした。

丸尾

そんなに繊細なものとは・・!?(驚)

稲葉

11月に入ってしまったので、「これ以上オープン日を先延ばしにできない」と、11月14 日にオープンすると決めました。

  

けれど、オープン2日前になってもまだ「あの味」に到達していなかったんです。素朴なおまんじゅうだからこそ、100点満点でないとお客様の求める絶妙な味のバランスに到達しません。

 

店主の筒塩さんに、「お願いなので、もう1度だけ来てください」と頼み込み、奥さんと一緒に車椅子に乗った店主に調理場まで来ていただきました。店主の筒塩さんには、それまでにも何度もご指導いただいていて、「70点だな、80点だな」と確認してもらっていました。

 

90点までは到達していたのですが、最後の最後、いわゆるブラックゾーンのような部分に手をつけていいのかダメなのかが私共では判断がつかなくて。その日、店主の筒塩さんから「もちろん、やりなさい」と言っていただき、視界がひらきました。「これでOK」と合格点をいただき、なんとか無事にオープン日を迎えることができました。

3素朴だからこそ、極めて繊細で難しかった

丸尾

これまでに多くの銘菓を作られてきた「くらや」さんでも、それほどまでに「あの味」の再現に苦戦されるとは・・・。

稲葉

難しい・・・。素朴だからこそ、難しいんです。生地の配合や蒸し方など、わずかな違いで差が出てくる。暖かい時期と寒い時期で、味が変わるんです。同じ味を再現するのに、教わったことを忠実に守っていても色々な問題が出てきて、私たちはいまだに手探りで作っているような感覚です。

 

店主の筒塩さんから合格点をいただいたものの、「日によって生地の硬さや蒸し上がりが変わってくるから、味を一定にする努力は絶対にしてください」とのお言葉をいただいています。それほどまでに繊細で奥の深いおまんじゅうなんです。だからこそ、とてもやりがいを感じています。

丸尾

「くらや」さんが「あの味」を受け継がれ、津山の銘菓が復活する。本当に素晴らしいことだなと思います。

稲葉

店主の筒塩さんが事業承継で一番心配されていたのが、「お菓子づくりの経験・技術がある人でないと、一番大事な“塩梅”が伝わらない」ことだったと言います。実際に、同業者の私たちから見ても、「あの1個の素朴なおまんじゅうを、あそこまでの味に作り上げられている」という難しさは感じていましたので。

 

「あの味」と「我々の手で作った味」の差がわかりやすければいいのですが、何が違うのかが“塩梅”という感覚で表現され、雲の中にあるようなお菓子を再現することは非常に難しかったですね。

 

店主の筒塩さんも、「長年の経験から培った職人特有の感覚」という言葉でしか教えられないと、おっしゃっていました。ゼロからお菓子を作る方が、逆にラクかもしれません。長年、お菓子づくりに携わってきた同業者だからこそ、何とか再現することができた味だと思っています。

4オープン初日に感じた「嬉しさ」と「責任の重さ」

丸尾

そうやって迎えられたオープン初日は、いかがだったのでしょうか?

稲葉

オープン2日前にやっとお菓子の味が合格点に到達したものですから、包装や販売の準備にまで手が回っていない状態でした。お買い上げいただいた商品を、包んで販売する接客の練習も全くできない状態で、現場でてんやわんやでした。なんとも、慌ただしいオープンとなりました。

     

しかしオープンすると、行列ができ何時間も待って買ってくださるお客様の姿がありました。その姿を見て、「津山で長年愛されてきた『五大北天まんじゅう』をこんなにも待っていた人がいる。本当に、頑張ってよかった」と心の底から嬉しく感じました。

 

と同時に、自分の受け継いだ仕事の責任の重さも、あらためて実感しました。「つゝや」さんの「五大北天まんじゅう」は、津山に残さないといけない大きな価値だと感じています。

5ここにしかないものを継ないでいくこと

丸尾

最後に、岡山県北地域への思いを教えてください。

稲葉

近年は、地域独自のいいものがどんどん衰退していくことに危機感を持っています。地域の中小零細企業や小さな飲食店、お菓子屋さんなど、これまで地域に根ざしてきた歴史ある個性が姿を消していっています。

 

それでは、地方だからこその良さが失われてしまうと思います。この岡山県北地域を盛り上げるためにも、「ここにしかない特色のあるもの」をしっかり継承し、発信していきたいですね!

津山銘菓「五大北天まんじゅう」を受け継ぐ

丸尾と笑顔で話す稲葉さん

株式会社くらや

創業以来140年以上築いてきた伝統を大切に守り、老舗企業として代表銘菓「いちま」や「衆楽雅藻」をはじめ、いちご大福やどら焼き、ワッフルなど多彩なお菓子を製造・販売。地元津山で長年愛され続ける、伝統と革新を大切にする和菓子店。

あの津山銘菓「五大北天まんじゅう」を継承したリアルなお話をお聞きし、「あの味」を再現する困難さに向かう、菓子屋としての誇りと、伝統を受け継ぐ想いを強く感じ、身を乗り出して聞き入ってしまいました。津山地域の文化とも言える「五大北天まんじゅう」が引き継がれて、これからも届けられていく、そのターニングポイントに立ち会えたような心持ちになりました。

 

「創業148年を迎えた老舗菓子屋 くらや」、そして「五大北天まんじゅう つゝや」。これからもこの地域の大きな魅力として、地域を盛り上げてくれることでしょう。

お話を聞かせていただきありがとうございました。

 

和菓子店「くらや」のショーケースの前でにこやかに話す稲葉さんと丸尾

 

▼前編はこちら

老舗和菓子屋として、時代に合わせた「オンリーワン」を

  • 取材日:2025年4月10日
  • 撮影地:株式会社くらや(岡山県津山市)
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