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家族で受け継ぐ、瑞々しい旬の味。通いたくなるブルーベリー農園
目次
美咲町のブルーベリー農園 「美咲ブルーファーム寒竹」
岡山県中央部に位置する、美咲町。
総面積の6割が山林にあたり、「日本の棚田百選」にも選定 されるなど、のどかな田園風景が広がる緑豊かな地域です。
このエリアで家族連れに人気なのが、「美咲ブルーファーム寒竹」。さまざまな品種のブルーベリー狩り体験を楽しめるブルーベリー農園です。
中国自動車道津山ICから20分ほどで到着
訪れたのはちょうど収穫期を迎えた7月。真夏の太陽の下、かわいらしい実をつけたブルーベリーの木々が見渡す限りに並んでいます。
目の健康にいいとされ、ビタミンや食物繊維も豊富に含むブルーベリー。旬のブルーベリーの魅力を探るべく、栽培や加工を担当する小坂(おさか)さんにお話を伺いました。
美咲町の山あいに広がる、ブルーベリー農園
親から子へ、家族でブルーベリーを育てて12年
― 今日はよろしくお願いします。ご家族で営まれていると伺いましたが、とても広い農園ですね。
小坂さん:そうですね、農園内にあるブルーベリーの木は1,000本以上、品種は50近くあります。12年ほど前に、祖父と父が建設業のかたわらブルーベリー栽培を始めたのですが、次第にどんどん夢中になっていって。今は弟が社長を継ぎましたが、父と母も変わらず一緒に、家族総出でブルーベリー栽培を中心に頑張っています。
ブルーベリーの栽培と加工を担当する小坂さん
― まさにご家族経営ですね。ブルーベリーと一口にいっても、品種が50種類もあるんですね。
小坂さん:最初は5品種くらいだったようですが、父が研究熱心で、どんどん種類が増えていったようです。品種によって酸味や風味はさまざまです。摘みたての味をその場で楽しんでいただいたり、それぞれの特徴を生かして加工品にしたりしています。
― 小坂さんご自身も、ずっとこの農園に携わってこられたのでしょうか。
小坂さん:本格的に働き始めてからは5年くらいですね。別の仕事をしていた時期もありましたが、家族の介護の事情で、農園を手伝うようになって。父の近くで働くうちに「おいしいものを作りたい」という想いが自然と伝わってきて、「一緒にいいものを作っていきたい」と思うようになりました。
― 一緒に仕事をしてみて分かることもありますよね。ご家族だと距離が近い分、難しいこともありますか?
小坂さん:家族に限らずかもしれないですけど、なんでも言えるのでケンカはしょっちゅうですね(笑)。でも、なんだかんだ仲は良いし、このメンバーだからやっていけるな、と思っています。
食べ比べが楽しい、奥深いブルーベリー狩り体験
― ブルーベリー体験では、どのような品種が楽しめますか。
小坂さん:毎年6月から8月にかけて収穫体験ができますが、時期によって食べられる品種が少しずつ変わります。6月から7月中旬に収穫できる品種を「ハイブッシュ」といいますが、酸味と甘みのバランスがよくて、さっぱりとしています。皮も薄くて食べやすいものが多いです。
7月下旬から8月半ばに食べ頃になるのが、「ラビットアイ」という品種です。ハイブッシュよりも甘みが強いものが多く、糖度は16~17度くらい。糖度でいうとぶどうやリンゴなどに近いですね。
赤から青へ、色が変わるラビットアイ。名前の由来は「丸いウサギの目」
― ブルーベリーの木は背が低いので、お子さんも楽しみやすそうですね。
小坂さん:はい、摘むのに力もいらないですし、小粒で食べやすいですしね。小さなお子さんのフルーツ狩りデビューにおすすめだと思います。見た目が星形の「フロリダスター」や、ピンク色をした「ピンクレモネード」など、珍しい品種はとくに喜ばれますね。お子さんたちはまず食べるよりもたくさん採ることが楽しいみたいで。
― 非日常の体験ですもんね。さまざまな品種の食べ比べができるのも楽しいですね。
小坂さん:タイミングによってまったく違う味が楽しめるので、夏のワンシーズンの中で何回も来ていただくご家族連れも多いですね。
ブルーベリー狩りのコツを教えてくれる小坂さん
赤みがかった軸や、濃い色の根元が収穫のサイン。実に親指を掛けるときれいに採れる
― ブルーベリーの表面の白っぽい色みは何ですか?
小坂さん:「ブルーム」といいます。これも収穫できる目安の一つで、鮮度を保つ大切な役割を果たしています。ブルームが落ちてしまうと傷みが早くなるので、出荷用のブルーベリーを収穫するときは手袋をかけて丁寧に手摘みしています。
白っぽい粉のようなものがブルーム
おいしいブルーベリーができるまで。栽培方法のこだわり
きれいに整列したブルーベリーの木々
― たくさんの品種がありますが、栽培方法のこだわりを教えていただけますか。
小坂さん:ポット栽培といって、一本一本をポットの中で育てています。ブルーベリーが育つには酸性の土壌が必要なので、一つ一つのポットの中が最適な環境になるようにしています。虫よけのためにヒノキのチップを入れたり、土の中に有機肥料を入れたお茶パックが入っていたり、いろいろ仕掛けがあるんです。
栽培方法について教えてくれる小坂さん
― お茶のパックが使われているのは驚きました。ブルーベリー栽培ではよく見られるやり方なんでしょうか。
小坂さん:お茶パックからブルーベリーに必要な養分が染み出て、土全体に行き渡るようになっています。この栽培方法は、実は父が独自に確立した方法なんです。もともと他の方法で行っていましたが、父が毎年少しずつ試行錯誤して、改良を加えながら今の方法にたどり着きました。
― 先ほどのお話でもありましたが、お父様が研究熱心なんですね。
小坂さん:そうですね。「よりおいしいものを作ろう」という姿勢は尊敬していますし、見習っています。自分で編み出したこの方法を、父は「有機ドリップ方式だな」と言っていました。たしかにコーヒーみたいですよね。
こだわりの栽培方法で、きれいな実をつけたブルーベリー
毎年6月の「実り」に感じる達成感
― この仕事をされていて、楽しい瞬間や嬉しい瞬間はどんなときですか。
小坂さん:お客様から「おいしかったよ」と言っていただけるのは、やはりとても嬉しいです。それに加えて、実ができたときの達成感も大きいですね。この仕事って草刈りをしたり、肥料を運んだり、作業自体はすごくハードなんです。だからその分、実がね、毎年6月になってきれいに色づくとすごく嬉しくて。「ああ、今年もできたな。やっててよかったな」と、この達成感は何物にも代えられないですね。
毎年嬉しくなる、ブルーベリーが実る瞬間
四季折々、山あいの景色が美しい美咲町
― 美咲町の暮らしで、どんなところがお気に入りですか。
小坂さん:やっぱり一番は、自然を身近に感じられるところですね。春になると、ブルーベリーの木には白やピンクの花がたくさん咲くんです。これがスズランみたいにかわいらしくて。夏にはホタルも見られますし、四季の移り変わりは心が癒やされますね。
― SNSで紅葉のお写真もアップされていましたね。ブルーベリーも紅葉がきれいでびっくりしました。
小坂さん:そうなんです。あたり一面、真っ赤に美しく色づきます。ブルーベリー体験のピークは夏ですが、ぜひ秋にもお客様に来てもらえたらと思っています。
また、美咲町は中山間地で農家が多いので、収穫期のピークなどはご近所同士で助け合えるところもいいですね。近くのぶどう農家さんとも、人手が必要なときはお互いに行き来しています。
ブルーベリーの意外な一面。秋には真っ赤に色づく様子が楽しめる
ブルーベリーをたくさんの人に味わってもらえたら
― ブルーベリーの加工品もたくさんありますね。ジャムに、ソースに、フランス菓子のロッシェに。おすすめの商品や食べ方はありますか。
小坂さん:ブルーベリーのおいしさをダイレクトに感じられるのは、やっぱりジャムですね。ヨーグルトにかけたり、ハイブッシュのジャムは、カリカリに焼いたトーストに乗せるのもおすすめです。手前味噌ですけど、とろけるような食感で本当においしいですよ。ブルーベリーは健康にも良くて低カロリーですし、たくさんの方に日常で食べてもらえたらと思います。
カフェには色鮮やかなブルーベリーの加工品が並ぶ
― 7月現在、カフェは一部改装中のようですが、メニューなどを変えられるのですか。
小坂さん:カフェではブルーベリーのかき氷などをお出ししていますが、今後はテイクアウトも始めようと思っています。ジェラートやスムージーなど、通年で楽しんでもらえるメニューですね。
― 素敵ですね。テイクアウトメニューの開発も小坂さんが一手にされているんですね。
小坂さん:私が手は動かしていますけど、もともとは父が作り上げた農園なので、父にいろいろ相談しながら進めています。親子で「ああしたらいいんじゃないか、こうしたらいいんじゃないか」と、試行錯誤の毎日ですね。
井原市の調味料メーカー大興産業(株)と共同開発した「果実の飲む酢 ブルーベリー酢」
「父の仕事への姿勢を尊敬しているんです」と、柔らかい物腰で語っていた小坂さん。
テイクアウトメニューへの挑戦や地域の企業との共同商品開発など、新しいことにチャレンジする姿勢からは、その想いがしっかり受け継がれていると感じました。
取材中に、生のブルーベリーをいくつか食べさせていただきました。驚いたのが、そのジューシーで爽やかな甘みと、品種ごとにまったく異なる味わい。家族で力を合わせ、手塩にかけて育てられた、「今、ここでしか味わえない味」だと実感しました。
ワンシーズンで何度も足を運ぶという、ご家族連れの気持ちが分かった気がします。旬の瑞々しいブルーベリーを味わいに、美咲ブルーファーム寒竹へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
ブルーベリーの素敵な花言葉、「実りある人生」
取材・文:楢崎 美香