[Uターン・Iターン・移住]いーなかえーるは、岡山県北の求人情報をご紹介します
阿波の“家族”で届ける味。ここにしかない、空気と水と、特別なご馳走。
目次
囲炉裏焼き あなみ
岡山県津山市阿波(あば)は、もっとも鳥取県に近い大字で、「にほんの里100選」にも選ばれた名所。土地は高い山々に囲まれていて、360度どこを向いても、美しい緑が視界を占めます。その雰囲気は、さながらジブリ映画「となりのトトロ」のよう。一歩車から降りて、息を吸い、水の音を聴けば、それらがどれだけ綺麗なものかすぐに想像できます。
「囲炉裏焼き あなみ」は、そんな阿波で、創業16年を迎える和食店です。
自家製豆富(とうふ)や自家製味噌、そして川魚あまごなど、囲炉裏でいただくこだわりの料理は、和食に馴染みのあるご年配の方に限らず、10代から20代の若い世代からも支持を集めています。
岡山県津山市阿波で創業16年目を迎える「囲炉裏焼き あなみ」
じつはこのお店、「ミシュランガイド京都・大阪+岡山2021」にてミシュランプレートにも選ばれた人気店。交通には不便な場所にありながら、土日は予約必須。平日でも客足が絶えません。
本記事では、「あなみ」の人気の秘密に迫るべく、お店の二代目である田中康嗣さんにお話を伺いました。阿波と家族を大切にする田中さんの温厚篤実な人柄をとおして、「あなみ」が継ぐ味をご紹介します。
「囲炉裏焼き あなみ」二代目・田中康嗣さん
「あなみ」に吹く新しい風
ーまずは、2021年のミシュランガイド掲載おめでとうございます。
田中さん:ありがとうございます。これからもお越しいただいたお客様に喜んでいただけるお店をつくっていけたらと思います。
ー今回のミシュランガイド掲載で、何か反響はありましたか。
田中さん:常連さんには勿論喜んでいただけましたし、新規のお客様にお越しいただくことがより増えました。ミシュランガイドに限らず、店のインスタグラムをきっかけに「あなみ」を知っていただくことも多いですね。やはり沢山の方に来ていただきたいので、今後も情報発信には力を入れていきたいです。
ーお店のインスタグラムは、田中さんが始められたんですよね。
田中さん:インスタグラムを始めて、3年くらいになります。「あなみ」をより良くすることを考えて始めた活動のひとつです。僕が津山に帰ってきてから6年が経ちますが、若い世代だからこそできる経営、広報があり、これまでもこれからも、それを行うことが自分の仕事だと感じています。
ミシュランガイドにも掲載された「あなみ」店内
津山から離れた土地で、食の大切さを感じた
ー岐阜の学校に通うため、中学生の頃津山を離れられました。
田中さん:祖父が教えていた関係で、岐阜県の瑞浪市の学校に進学を決めました。母も長野県の出身なので、東海地方には縁がありますね。その後名古屋の大学に進学し、食品について学びました。
ー「あなみ」を継ぐという意思が、やはりその頃からあったのでしょうか。
田中さん:継ぐという意識はありませんでしたが、ただ漠然と、食に関わる仕事をしようと思っていました。きっかけは高校生の頃、スポーツ中の事故で、顎の骨を砕いてしまったことです。治るまで流動食で、それがとても辛かった。そこで、食べることの大切さを強く感じたことが、今に繋がっている気がします。
ーそれでは、津山に戻り「あなみ」の二代目になったことは、田中さんにとっても予想していなかったことだったのですね。
田中さん:はい。ただ、もしかすると、心のどこかでは感じていたのかもしれません。大学卒業後、京都で有機野菜の流通の仕事をしていましたが、そのなかでも、両親に対しての尊敬の気持ちは増していました。一代で終わらせるわけにはいかないとは、ずっと考えていたんです。両親はこれまで自由にさせてくれましたが、僕が戻ってきて、内心ではしめしめという気持ちかもしれませんね(笑)
囲炉裏の準備をする様子
これからも「子ども達に毎日食べさせてあげられるもの」を
ー「あなみ」では、厨房に立たれているのでしょうか。
田中さん:いいえ、料理は今も母が中心です。自分は主にホールに立ち、お客様と言葉を交わしながら、経営に携わっています。
ー田中さんがお店の経営に携わるようになって、大きく変わったところはどこですか。
田中さん:客層の幅が大きく広がったところでしょうか。じつは6年前、ここへ帰ってきたばかりの頃、「あなみ」は客層に偏りがありました。ご高齢の方が多く、若い世代の来客はほとんどなかった。僕自身20代というのもあり、自分と同じくらいの客層をもっと増やすべきだと考えたんです。そこで、先のインスタグラムなど、情報発信の仕方を工夫してみました。結果、若い世代にとっては新鮮な「囲炉裏焼き」が、フォトジェニックだということでヒットし、今の集客に繋がったのだと思います。
囲炉裏でいただく五平餅やあまごは、写真映えがするという点でも人気
ーこれだけ美味しいお料理と、素敵な店内ですから、幅広い世代の方にお越しいただきたいですよね。
田中さん:自分には4歳と2歳の息子がいますが、彼らが大きくなったときに愛着を持ってもらえるお店でありたいとは、いつも思っています。父はこの「あなみ」を、「子ども達に毎日食べさせてあげられるものをつくりたい!」という想いのもと始めましたが、その意味が親になってようやく分かりました。「あなみ」では、あまご、お豆富、五平餅をお楽しみいただける「お子さまセット」もご用意しています。大人子どもに限らず、本当に美味しいものは、美味しい。「あなみ」をきっかけに、食の素晴らしい縁を繋げていきたいですね。
ランチセット「あなみ」¥2,600
旬の食材を伝統的な調理方法で味わう
景色もご馳走、「あなみ」だからこその味
ー「あなみ」での一番人気は、お店の名前を冠したコースメニュー「あなみ」です。
田中さん:色々と満遍なくお楽しみいただけるので、人気をいただいています。ただ、本当を言うと、是非「さくら」もお召し上がりいただきたい。スタッフの一番のおすすめです。自慢のお豆富と味噌、あまご、そして五平餅をご堪能いただけますので、リピーターの方はどうぞこちらもお試しください。
ー自家製のお豆富やお味噌は、「あなみ」さんの代名詞のようになっていますよね。
田中さん:「あなみ」は飲食店ですが、豆富屋でもあり、味噌屋でもあるんです。どちらにもこだわりを持っていて、たとえば味噌に関しては、市販の一般的なものは一年熟成のところ、うちは三年熟成させています。「三年味噌は薬になる」なんて言われることもあるようで、効率は悪いですが、この製法は昔も今も変わりません。唯一無二の風味だと、自信を持っています。
お味噌とお豆富、お米は、「あなみ」の原点でありこだわり
ーすべてのメニューに通ずるこだわりがあれば、お聞かせください。
田中さん:「美味しいもの」「価値のあるもの」を、大量生産ではなく、丁寧に届けたい。選んでいただけるものを作り続けたいです。たとえば「あなみ」は阿波という場所にあることもあり、どのお客様も、ここだけを目的地にいらっしゃいます。県南や隣県から、大体皆さん2時間程度かけてお越しいただいているようです。貴重な時間をかけてわざわざお越しいただいた方に、「やっぱり来てよかった」と感じていただきたいというのが「あなみ」のこだわりですし、僕が繋げていきたいところですね。
ーこの景色の中お食事をいただけるというのも、大きな特長だと感じます。
田中さん:お客さまからはよく「景色もご馳走」だと言っていただきます。お料理と一緒に味わっていただくための広いガラス窓ですので、そう言っていただけると嬉しいです。是非四季折々の美しい風景を眺めながら、お食事をお楽しみください。
美しい景色を背景に店内に流れる、静かで穏やかな時間
阿波に住む人たちは「あなみ」の“家族”
ー津山市や阿波の好きなところはどこですか。
田中さん:澄んだ空気と水、子どもにとって最高の環境…というのはよく挙げられますが、ひょっとすると一番は、人と人との繋がりかもしれません。ここでは、家族じゃない人も、家族なんですよ。僕自身、近所のおじいさんに、子どもの頃よく懐いていました。亡くなった時はとても悲しくて、もしかしたら、離れて暮らすおじいさんの本当のお孫さんよりも、泣いていたかもしれない。それだけ大きな存在で、大好きな大人が家族以外にいるというのは、とても素敵なことですよね。
「こどもの日」を控えた4月末、お店の外には子どもたちの成長を願う鯉のぼりが
ーそこで暮らす子どもはきっと、皆の子どもだったのですね。そういった温かい繋がりを感じられる出来事は、現在でもありますか。
田中さん:たとえば今、駐車場で草むしりをしてくれているおばあちゃんは、スタッフや親戚ではなく近所の方なんですよ。草むしり以外でも、山菜を採ってきてくれたり、お店の皿洗いをしてくれたりもして、本当にありがたいです。だから「あなみ」は、阿波に住む“家族”全員で作っているのだと感じています。
ー素晴らしい繋がりを、これからも大切にしたいですね。
田中さん:やはり過疎化が進み、幼稚園、小学校がどんどんなくなってしまってはいますが、僕ら若い世代でまた盛り立てて、この場所を守っていきたいですね。
明るく未来を語る田中さん
すべての始まりの地から、より大きな波を
ー「あなみ」という店名は、阿波を平仮名読みさせただけでなく、もうひとつ意味があるとお聞きしました。
田中さん:吉川の源流が阿波にあるということから、すべての始まりはここにあると、我々は考えています。始まりの地から良い流れを起こすという意味で、50音の最初である「あ」と、波を並べ、店名に想いを込めたそうです。
ー今後どのような波を起こしていきたいか、何かお考えはありますか。
田中さん:今自分がしていることは、両親が作ってくれた土台にあります。両親が築いてきたものを、僕がより良くしていく。僕ができることといえば、若い感性と、外部との繋がりを以て、この歴史を次に刻んでいくことだと考えています。
ご両親が作り田中さんが繋げる「あなみ」店内
ーそれは引いては阿波という地域全体を盛り上げるということにも繋がりますよね。
田中さん:はい。しかしそれはきっと自分ひとりでは難しくて、協力が必要です。最近、阿波はグランピングでもフォーカスされていますが、じつはその運営の方とも、そんなことをお話ししたりしているんです。彼らとの横の繋がりも大切にしつつ、みんなで良い未来を築いていきたいですね。
ー今後の「あなみ」の味、そして阿波の発展から目が離せません。
田中さん:とは言え、まだまだ発展途上です。僕自身試行錯誤の毎日ですが、阿波の子どもたちの未来を考えながら、一歩一歩進んでいけたらと考えています。今後に乞うご期待です!
「あなみ」の料理はきっと、素材や調理の素晴らしさだけでなく、その景観や、雰囲気も含めて完成されるのではないでしょうか。田中さんをはじめ、笑顔で対応してくれる「あなみ」の“家族”の声を聞きつつ、緑を眺めながらいただくと、言葉では表せない幸せな気持ちに包まれます。
「あなみ」のマークは、赤トンボ。赤トンボは、無農薬の、本当に美しい田んぼの上にしか飛ばないそうです。そんな赤トンボが沢山いる地域に、という願いが込められた「あなみ」の味が、阿波の美しい自然の象徴として、子どもらの世代のさらに先まで、長く愛されることを願ってやみません。
お食事と景色を味わいに、阿波の「あなみ」に是非お運びください
取材・文:山田ルーナ